2021/08/25 コロナ往診に携わってみて、多くの場合発症から何日も38-39度の高熱が続くため、たとえ呼吸不全がなくても、患者さんが救急車を呼ぶことがしばしば起こっていることを経験した。あと自宅療養中に同居の家族が発症し、困って保健所に連絡し、救急車を呼ばれたと言うケースもあった。
コロナ感染者が自宅療養を強いられながらも、こうした症状に対して救急隊に頼るしかない状況がなぜ起こっているのか。COVID-19は法定伝染病に指定されているため、発熱外来で診断した医師は即刻保健所に届ける義務がある。そこから先は保健所の管轄となり、これまでは強制的に隔離入院(=病院での病状管理)となっていた。しかしこの感染爆発で国は「コロナはまず自宅療養」としているが、頼みの保健所はその自宅療養者への調査や経過フォローの連絡がまったく追いついていないように見える。
今回のコロナ往診で初めて保健所と直接的な連携をするようになったが、そこではどんな人たちが、どんな体制で、どんな仕事をしているのか、まったく顔が見えない不安を感じていた。この状況下での保健所側が抱える課題が見えるようになることで、僕らの動き方もより地域に最適化されたものになるのではないかと考え、共に世田谷のコロナ往診を担当しているふくろうクリニックの山口先生、GPクリニックの斉藤先生と一緒に保健所の感染対策課に伺ってみた。
区役所の一角に感染対策課の広いオフィスがあり、会議用テーブルがぎっしり並べられた急ごしらえのような場所で、およそ200名くらいのスタッフが詰めておられた。コールセンターのエリア、感染症者のシステム登録のエリア、フォローアップや入院調整のエリアなど部門別に分けられている。我々のコンタクト先である往診依頼や入院調整をなさるのは総勢8名の保健師さんたち。現在区で管理している感染者は3000名を超え、保健師さんたちのフォローも第4波までの100名レベルが、現在は500名を超えたそうだ。
コロナ感染者の届出・調査・観察・割り振り・入院調整のすべてをこの感染対策課で行っているが、世田谷区内だけで1日350名を超えて急増し続ける新規感染者への対応に追われている。細かい業務の内容までは判らなかったが、僕らが協力できそうなこととして、新規感染者登録についての問題があった。従来感染者の保健所への届出には紙書類のFAXとHER-SYSという専用オンライン登録システムの2つが選択できる。しかしFAXで届けられたものは、保健所スタッフがHER-SYSに手入力しているそうで、それが全体の50%に及ぶため、登録処理に時間がかかり、登録後に始まるトリアージなどの業務まで遅延させてしまうようだった。医療機関側がFAXではなく直接HER-SYSに入力すれば、保健所側の登録業務は無くなり、大幅に業務負担が軽減されることになる。翌日さっそく医師会経由で地域の先生方にHER-SYSによる登録をお願いし、100%オンライン化を目指そうと呼びかけた。
あと、保健所が担っている業務で不安を感じるのは、やはり自宅療養者への状態観察が追いついていないということである。かかりつけや発熱外来の医師は、PCR検査で診断したのち、すぐに保健所に届ける。医師には「伝染病であるコロナは保健所管轄」という認識がこの1年半ですっかり刷り込まれているので、診断後のフォローをしていないことが多い。結果的に自宅療養と言われたコロナ感染者の方々は、自分を継続的にサポートしてくれる医者も保健師もいない状態に置かれてしまい、人生で最も苦しいであろうこの感染症の症状に独り自宅でで向き合うことになる。高熱が4〜5日経っても収まらず、いよいよ咳や呼吸苦まで出てくると、救急要請してしまうのは当然の反応と思う。
保健所がパンクしているのなら、かかりつけ医や診断した医療機関が分担してフォローすればいい。軽症レベルでも救急要請してしまうほど不安や症状が続くコロナ自宅療養なので、かかりつけ医や保健所から要請をうけた僕ら在宅チームが電話や往診して話を聞き、必要な薬や酸素を処方し、この後も必ず毎日サポートしていくことを伝え、連絡先をお伝えする。それだけでも自宅療養者の不安は軽減され救急要請も減らせるだろう。自宅療養には必発の家族内感染についても、日々の電話フォローで確認していき、必要なら往診でPCR検査等を行うこともできる。
保健所任せでは回らなくなっているいま、自宅療養者を守るのは地域医療の役割だと認識し、各医師会や地域の開業医は積極的に関わっていくべきと思う。さっそく当院でも発熱で受診されPCR陽性が確認された方やそのご家族には、連日こちらでフォローして必要に応じて往診も行うことにした。玉川医師会でも、地域の先生たちがフォローなさっている方で、往診や検査の必要があれば、直接このコロナ往診チームに出動要請して頂くことなどを取り決めた。
まだまだ長引くだろうし、今後は共存化していくだろうCOVID-19に対して、これを機に地域医療の対応力を高めておくこと、保健所や医師会も一体となった体制作りをしていくことを、どんどん具体化していきたい。