こかげカフェ [グリーフケアの会]
当院の在宅医療部と訪問看護ステーションでは、「こかげカフェ」というグリーフケアの会(遺族会)を不定期開催しています。新型コロナウイルスの流行以降は開催できていませんでしたが、ようやく再開の運びとなりました。
この記事では、わたしたちが大切にしているグリーフケアの会の様子をお伝えしたいと思います。
「こかげカフェ」って?
「こかげカフェ」は、当院の訪問診療や訪問看護で長く関わらせていただいた患者さんのご遺族にお声がけし、語らいと分かち合いの時間を一緒に過ごす場です。
大切な人を見送ったあと、多くの人はさまざまな大きさ・かたちの喪失感を抱えますが、日常のなかでそのことを語る機会をなかなか持てない場合が多いものです。「こかげカフェ」では、心理的に安全な《決して否定されず、受け入れられ、個人情報が守られる》場をつくっています。安全だからこそ語ることができるし、その語りは同じように喪失を抱える人と分かち合われ、「ひとりじゃない」ということを感じる機会になるかもしれません。
長く歩いてきた旅人が、歩き疲れたときに木陰でひと休みをする。そしてまた歩きはじめることができる。そんなひと休みの場になればと思い、わたしたちは「こかげカフェ」を開催しています。
喪失感や哀しみ(グリーフ、と呼んでいます)への向き合い方は人それぞれですから、“集まって話す”ことが向く人もいれば、“親しんだ人とふたりで話す”ほうが向いていたり、“ひとりで向き合いたい”という人もいると思います。そのなかで「こかげカフェ」は、集まって話すことにフォーカスした場になっています。
グリーフ(悲嘆)って?
グリーフ(悲嘆)とは、大切な人を亡くしたときに受ける複雑な心理的、身体的、社会的反応のことを言います。その反応は、生き方や対人関係に強い影響を与えます。グリーフ(悲嘆)は、他の人には理解されにくいことが多く、知らず知らず隠してしまうことも多いのです。「喪失」は、日々の暮らしでも経験します。例えばそれは、大切なものや親しい人、健康を失うことなどによっても感じることですが、そのなかでも、死別は最大の喪失と言われています。
スタッフにとっても、大切な時間
わたしたちスタッフにとっても、患者さんの最期を支えた時間はかけがえのないものです。一時期は毎日のように連絡を取り合ったり、訪問をしていたりしたのに、患者さんを見送ったあとそのご家族とぱたりとお会いできなくなってしまう。お悔やみの訪問はさせていただくけれど、回数を重ねるわけではないので、いつも「どうしているかな」と気になっているのです。
一緒に支えた最期の時間のことを振り返り言葉を交わすことは、わたしたちスタッフにとっても大切な時間になります。
どんなプログラムで開催されるの?
わたしたちのプログラムは、ごあいさつのあとで《大切にしてほしいこと》をお伝えするところからはじまります。安全な場をつくるために必要なお約束です。
大切にしてほしいこと
話すとき
① みんなに話せることだけを話してください
② 話せないときは、パスしてもOKです
聴くとき
① ここで聴いた話は、ここに置いていきます。別の場所で誰かに話さないでください
② 話されたことの内容に、良し悪しをつけないようにしましょう
そのあとは、ピアノ演奏に耳を傾けて緊張をやわらげ(今回はマービイ・ピアノスクールの淡島さんがボランティアで演奏してくださいました)、ファシリテーターのスタッフが司会をしながらふたつのグループに分かれてひとりひとり語りの時間(分かち合いの会)を持ちます。分かち合いの会は二部構成になっていて、一部が終わったあとは休憩を挟み、コーヒーとケーキを食べながら自由にスタッフや他の参加者と語らいます。
会場の工夫
以前はお店をお借りして「こかげカフェ」を開催していましたが、昨年引っ越しをして広くなったこともあり、在宅医療部の事務所で行いました。自由に空間をつくることができますし、プライベートな情報が確実に守られる環境をつくることができたと思います。
今回取り入れた工夫のひとつが、大切な人との別れを語るなかで涙が止まらなくなったり、心がつらくなったときにひとりになれる場をつくったこと。砧公園の緑を見ながら、ほっと一息つくことができる空間を用意していました。
スタッフからの「星に願いを」
こかげカフェでは、毎回スタッフが演奏する時間をつくっています。
今回も、スタッフが訪問診療・看護のあとで夜な夜な練習を重ねたハンドベルで、「星に願いを」の演奏を行いました。緊張のあまり音をとばすこともありましたが、参加してくださった皆さんが一丸となって演奏を応援をしてくれるような空間になっていました。(アンコールもいただき、ありがとうございました!)
今回のこかげカフェ
日時:2024年4月13日 13:30〜15:30
場所:桜新町アーバンクリニック 在宅医療部
こかげカフェを開催したときによくお話しいただくことのひとつが、「懐かしいスタッフと会って話したいと思いつつも、顔を見たら思い出してつらくなってしまうんじゃないかと心配していた。けれど、思いきって来てよかったです」ということです。
「大切な人を見送る」というかけがえのない時間には、哀しみばかりではなくて温かさやユーモアのある小さなエピソードもたくさんあります。同じ時間を共有した仲間であるスタッフともう一度再会し、語り直す時間によって、少しだけ心が軽やかになるのかもしれません。
今回も、途中涙されていた方も、最後は穏やかな笑顔で帰宅されていたのが印象的でした。(笑顔なのは、わたしたちスタッフのハンドベルチームの演奏が、わりと手に汗握る感じだったからかもしれませんが…!でも練習の成果も出て、とても喜んでいただきました)
こかげカフェのあとで、全ての参加者の方に手書きのお手紙をお送りしました。「楽しい時間だったな」と思い起こしていただけたら、と思っています。参加してくださったご遺族のみなさん、ボランティアでピアノを演奏してくださったりお手伝いくださったみなさん、ありがとうございました。
活動を見守っていてください
「人を看取る」ということに寄り添い続けるわたしたちは、これからもグリーフケアの場を構築しつづけたいと思っています。社会状況や時代によって、求められるかたちは変化していくものなので、柔軟に、みなさんの意見を取り入れながら、つづけていくつもりです。活動は今のところ不定期ですが、これからも見守っていただけたらありがたく思います。
こかげカフェ 企画・運営チーム
國居早苗、坂詰大輔、高木理江、杉野円香、遠矢純一郎
(記事と写真 尾山直子)