作業療法士の目線 ー訪問リハビリって何ですか?

インタビュー 2023.02.14

「作業療法士」という職業は一般的にあまり知られていないけれど、人の暮らしを「作業」という視点から見つめるおもしろくて頼もしい人たち。活躍の場は病院や施設、特別支援学校など多様ですが、今回は、自宅に訪問している作業療法士さんたちから、〈作業療法士の物の見方〉を紐解いてみたいと思います。

話し手=村島久美子・瀬戸口美優・伹野修理(作業療法士)
聞き手=尾山直子(看護師/広報)

作業療法士チーム (左から 瀬戸口・伹野・村島)

リハビリで目指すのは、「その人がどう暮らしたいか」

ー みなさんは訪問リハビリの作業療法士として、お家でリハビリをしていると思うのですが、日々どういうことをしているんですか?

村島

「リハビリ」っていうと、「身体を動かして、筋力つけて、どんどん良くしていく」というイメージが強いけど、それだけではないんです。訪問リハビリは「病気や怪我、何らかの障害から引き起こされている生きづらさに対して、より生活しやすく・生きやすくしていく」という感じでしょうか。

ー リハビリというと、一般的に「歩くリハビリ」をイメージされる方が多いですよね。

村島

そうですね。わたしたち作業療法士にとって、「歩く」は目的ではなくて、生活するための「手段」として捉えます。例えばいつもの公園に行きたいってなったときに、その手段である「歩く」が難しかったら、歩けるように支援する、ということです。
「歩けない」ということも細かく見ていって、靴を履く作業ができないのか、足を動かすことが難しいのか、そうやって目指すことを細かく砕いていった中に何が必要か?というのを考えるのが作業療法士ですね。

ー やりたいことに対して、工程を細かく分けて・どこができないか分析して・その部分にアプローチする、みたいな感じですか?

伹野

そうです、そうです。
作業療法士が考えているのは「歩く」の先のところですね。「歩いて、どこに行って、何をするか?」っていうことが、作業療法士が一番目指しているところです。

ー いいですね。麻雀やりに行きたいんだとかね。いらっしゃいますよね。

瀬戸口

ふふふふ、いらっしゃいますね。

伹野

もっと小さなことでもね。例えば着替えをするにしても、服を手に取るには置いてある場所まで少し歩かないといけないとか。そういった「歩く」という手段が、暮らしのどんな部分に生かされているかという細かい視点を持っています。

ー リハビリの専門家たちの中で、そういった「暮らし」に注目しているのは作業療法士の専門性ということ?

伹野

ってことになっております。(笑い)

ー リハビリって、作業療法士以外にも専門家がいますよね。

瀬戸口

作業療法士、理学療法士、言語聴覚士が「リハビリ3職種」と言われる国家資格の必要な職種です。もっと広いくくりでいうと、音楽療法士さんとかいろんな療法士がいます。

ー 理学療法士さんと作業療法士さんの役割の違いって何でしょうか?

村島

理学療法士は、身体の基礎固め・土台づくりをする専門家です。例えば、関節がこれぐらいが広がると着替えしやすいだろう、と見立てて関節を広げることに注力するとか。歩きやすくするために、ハムストリング(※)を柔らかくするとか、ハムストリングの短縮で歩きづらいのだったら、短縮しないように予防する動きを取り入れよう、とか。なかなかマニアックな世界ですね。そして、その土台の上に乗っている暮らしを作業療法士が支えるイメージです。

※ハムストリング
3つの筋肉(半腱様筋・半膜様筋・大腿二頭筋)の総称。 膝を曲げるときや股関節を後ろに反らすときに働く筋肉。

ー 「身体の土台づくりをして、その上に暮らすための動作がある」というのは分かりやすいですね。

伹野

そうですね。理学療法士が身体の基礎固め・土台づくりなら、作業療法士はその次の応用動作を担います。日常生活の動作を良くしたり、その人の趣味の練習をしたり。それも「作業」なんですよね。

生きることは、作業の連続性のなかにある

ー 作業療法士さんの言う「作業」って? 

瀬戸口

わたしたちの捉える「作業」は、仕事をすることや物づくりばかりじゃなくて、日々の暮らしのなかにある、食事や、睡眠、着替え、趣味、そういったあらゆることが含まれます。

伹野

作業療法士って「OT」って略称で呼ばれることが多いですが、正式にいうとOccupational Therapist(オキュペーショナル・セラピスト)。オキュペーショナルって「占める・占有する」っていう意味もあるんです。空間を「占有する」、作業で「占める」。

ー おお、どういうことでしょうか?もう少し詳しくお願いします。

伹野

僕たちって、朝起きて、寝るまで、何もしてないわけじゃない。それぞれの空間・時間を占める作業があるんです。人は、そういった作業の連続性のなかで生きています。

ー なるほど・・、生きているこの時間を、あらゆる「作業」で占めている。

伹野

僕たちの言う「作業」って、あまりにも日々当たり前にやっていることばかりだから、普段は大切さに気づいていないけど、出来なくなったときにとっても困るんです。
その「作業」を通して目指すのは、その動作ができればいいということではなくて、それができて本人が楽になったとか、豊かな時間がつくれたとか、そこまでいかないと。心にまで響かないと、作業療法にはならないと思っています。

村島

「障害」というのは、肩があがらなくて着替えが大変とか、足が動かなくて歩くのが難しくなったとか、重症度もさまざまですが、そういう障害とともに生きる人がいます。その固定された障害とともに生活を送っていくときには、「治す」の目標から「今の生き方をどう豊かにするか」という目標に置き換わっていきます。今の自分を受け止めつつ、自分がどうしていきたいか、というのを見つけて、それを周囲の人と共有して実行していく、というプロセスのなかのエネルギーになるのが「作業療法」かな。

ー 何らかの障害と生きることになったとき、今までと同じ手段では難しいけど、豊かな時間を取り戻せるように他の手段を再習得する、みたいなイメージで合ってます?

伹野

そうですね。取り戻せるんだったら取り戻すし、置き換える。別の手段や目標に置き換えることもあります。以前とやり方は違うけど、方法を変えたらできるとか。そういう感じですね。

ー 発想の転換も重要な気がしますね。

伹野

発想はかなり大事ですね〜

瀬戸口

ほんとそうですね〜。ふたりの話、講義を聞いている気分でした〜(笑い)

発想を転換し、解決していく専門家たち

ー 作業療法士さん達をみてると、「あっそうきますか!」ってことが多いんですよね。日々の職場での工夫を見ていても感じます。考え方が柔軟で、発想の転換がうまい人たち、っていうイメージ。

村島

作業療法士あるあるは、100均が大好き。アイデア商品グッズをみるのが大好き。何かに使えないかなって思いますね。

ー 作業療法士さんって、どういうキャラクターの人が多いですか?

村島

キャラクターは様々よね。

瀬戸口

強い人もいれば、ほわっとした人もいるし。がつがつ系も。

ー がつがつ系?!

伹野

ぐいぐい攻めたリハビリをしていく感じとか。(笑い)
優しい人もたくさんいますよ。

ー みなさんは、作業療法士っていう職業にどうして出会えたんですか?

瀬戸口

わたしはおじいちゃんの入院先で、作業のひとつとして塗り絵をしていて。おじいちゃんは認知症でせん妄(※)もあって、私のことも「お前誰だ!」ってちょっと怖かったんです。でも、リハビリの人と「これ一緒にやったよね」って話しているときはめちゃくちゃ笑顔で。さっきまでポカーンってしてた人の顔がこんなに変わるんだ、って、それがとても印象的だったんです。進路選択のときにリハビリの仕事を調べていて、作業療法士という職業を知りました。

※せん妄
病気や環境の変化などの要因により、注意力や場の状況を理解する能力が低下するなどの精神症状のこと。

伹野

いい話ですね〜。僕は中学校の社会科見学で知ってたけど、入ったのは資格があったほうがいいって思ったからですね。あったかいエピソードだな〜

村島

わたしは、中学校のときは弁護士になりたかったんですよ。政治経済が好きで、六法全書が好きで。弁護士になりたいなあってほわっと思いつつも、母親が看護師で助産師だったから医療系も捨てがたいなって。そうしたら病院で働いていた母親から「看護師は夜勤あるからやめなさい」って言われて、作業療法士だったら日勤で帰れるし夜勤が無いので。それと、自分がエレクトーン4歳からやっていたから、特技を活かせる職業、というのもありました。

ー みなさんの背景、おもしろいですね。

村島

「作業療法士さんって器用でしょ」ってよく言われるけど、決してそうじゃないよ、というのはここで言っておきたい!

瀬戸口

分かります!!

伹野

なんでも作れると思ったら、大間違いですよ。(笑い)

村島

特技はたくさんあったほうがいいなっていうのは思いますけどね。作業療法士自身も豊かに育っていかないと、人の人生に向き合えないから。多趣味であった方がいいと思うし、いろいろなことにアンテナを張っているほうがいいと思います。

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