アーバン日誌

在宅医療とかかりつけ医が担うこれからの地域医療のあるべき姿

院長ブログ 2025年1月9日

当院は、2009年から家庭医外来と在宅医療に取り組み始め、今年で15年になりました。      年始のご挨拶にかえて、それぞれについてお話しさせていただきます。

<在宅医療について>
開業当初は、在宅医療を提供しているクリニックもさほど多くはなく、地域の方々にささえていただきながら、少しずつ活動を広げていきました。2024年現在では、約500名の在宅患者さんを担当し、訪問診療、訪問看護、訪問リハビリ、ケアマネージャー、社会福祉士など多職種による多面的なサポート体制で、患者さんとご家族が希望される暮らしや療養を支援しています。

患者さんのご自宅や介護施設での診療を行う在宅医療には、2つの特徴があります。       1つは定期的な訪問により、患者さんの病気や老化による衰弱などに対して、必要な治療やリハビリ、ケアを行うこと。基本的に在宅医療を受ける方は、ご自身で医療機関への受診が困難な状態にあるため、本来なら定期的に外来通院するところを、医者が訪問して行うのです。

もう1つの特徴は、急な病状の変化に対して、臨時の往診や電話相談を受けることです。患者さんの多くは高齢かつ介護保険を利用されるような身体の虚弱さがあります。転倒や誤嚥、急な発熱などの体調変化が時々起こることがあります。そうした状況に際して、ご自身で病院を受診できないような場合、これまでは救急車を呼ぶしかありませんでした。一方で、在宅医療を受けている方なら、そうした緊急事態やちょっとした体調変化で不安な時は、在宅医に電話相談することができます。必要に応じて臨時の往診を受けることもできます。もちろん急病や転倒などの事故はいつ発生するか判りません。そこで、在宅医は24時間365日体制で緊急対応できるようにしています。もし自宅での治療が困難な病状の場合、在宅医が病院医に連絡して、緊急的な検査や入院を依頼することもできます。

最後にもう1つ、在宅医療の重要な役割をお話します。                    それは命の終わりに向き合うということです。                        人間も生き物である以上、必ず死が訪れます。医学はこれまで病気や老いを克服することを目指してめざましく進歩してきましたが、それでも命には限りがありますし、逆に医学の力を使って、無理矢理に生かし続けるような医療は、むしろ患者さんに対して大きな苦痛を与えてしまう弊害もあります。そうした「延命治療」といわれるやり方を望まない方が増えてきています。もちろん考え方は人それぞれですし、死生観や人生観、価値観には大きな個人差があるので、一律に医者の判断で医療を加えたり止めたりすることはできません。                          大事なことは「その方の意思」が反映されているかということです。在宅医は、日々の診療の中で、その方の暮らす場所を訪れ、その方の生きてきた歴史や価値観、家族との関係性など様々な情報を吸収しながら、その方らしい医療の提供やその先の死に方について、対話を続けていきます。患者さんが安心して、「自分のことを判っていてくれる医者」として委ねていただけるように時間や関わりを積み重ねていきます。これは、さすがに急病で搬送されて対応した救急医や専門疾患に特化した病院専門医には難しい仕事で、そこが在宅医療と病院の役割分担といえるところでしょう。手を尽くしても、いよいよ命の終わりがみえてきたとき、ご自宅などその方が望む場所で終末期の苦しみを和らげる緩和ケアを行いながら、穏やかで自然な最期を迎えることを支援するのも、在宅医療の重要な役割です。現在でも日本では約8割の方が病院で亡くなっています。しかし国民への意識調査では6−7割の方が病院ではなく、できれば自宅で最期を迎えたいと希望されています。

以上のように、在宅医療では、普段の定期的な診療から、いざというときの救急や最期の緩和ケアや看取りまで幅広く対応しています。もう少し具体的に在宅医療について知りたい方は、「在宅医療のはじめ方」という対談をぜひご覧ください。

<家庭医療について>
在宅医療は通院困難な方が対象ですが、まだご自分で通院できる方には、ぜひ家庭医療をお勧めします。家庭医療も馴染みのない言葉だと思いますが、英語ではfamily physician(家族の医者)と言います。一番近い日本語は、「かかりつけ医」となりますが、日本で「かかりつけ」というと、定期通院している病院の専門医だったり、科目ごとに「かかりつけ」を持っている状態も少なくありません。ひとは歳を重ねていくと、病気が増えていきます。その都度かかる専門科が増えていき、かかりつけの医者も複数になっていくのですが、個々に独立した診療となってしまい、薬の数や検査が増えていくことの弊害が出ています。特に日本では「フリーアクセス」といわれるように、国民はどこの病院でもどの専門医でも自由に選んで受診することが許容されているので、その傾向が強いのですが、これは世界的にも珍しく、一般的なことではありません。複数の病気を持つ高齢者には、個々の病気のことだけを考えて治療するよりも、その方の全体像を診ながら治療のバランスをとっていくことが必要です。加えて、足腰の衰弱や転倒骨折のリスク、認知機能などを適宜チェックしつつ、できるだけ自立した生活が送れるように、予防的な関わり方にも配慮していくような診療が求められます。年齢を経るにつれ、社会的に孤立しやすくなることも、心身ともに衰弱させる大きな要因であることも分かっています。そうした状況にある方を、地域の様々なサービスや活動につなぐことも、地域に密着した家庭医ならではの役割です。

なお、家庭医を実践するためには、以下のようなトレーニングを積む必要があります。     1) あらゆる疾患に対応し、マネジメントできること                     2) 身近で全人的な診療を行い、予防的な関わりで病状の悪化やトラブルを防ぐこと       3) 病気のことだけではなく、その方の健康に関わるために、継続的なカウンセリングや信頼関係を持てるようなコミュニケーションを行うこと                        4) 地域の保健や行政、介護事業などとつながり、必要な時にサポートできること        海外ではこうした家庭医療を実践する医者を育成することが盛んに行われており、地域医療のプライマリケア (プライマリとは、「初期」という意味と同時に「主な、中心的な」という意味も兼ねています) を担う存在として、医療全体の中心に据えられています。高齢化した日本でも、そのニーズが高まっており、全人的な診療ができる家庭医療、総合医療を実践する医者の育成が急ピッチで進められています。                                        桜新町アーバンクリニックでは、英国の家庭医療に学び、いち早く家庭医療、総合診療医の資格を持つ田中啓広医師を外来部長に、「あなたの人生の健康を一緒につくりましょう」をスローガンとして、これからの時代とみなさまのニーズに合う家庭医療を目指しています。             身近で何でも相談できる家庭医療について、ぜひご相談ください。

桜新町アーバンクリニック 院長 遠矢 純一郎

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